特定非営利活動法人 現代人形文化研究会

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8号 
2025年2月発行

contents

・現代人形研からのお知らせ
インフォメーション

 ・展覧会リポート
「清水ちえ個展 夢幻泡影」
「井桁裕子個展」
「第 12 回クラフトアート人形マッチングコンクール東京展」

・「私の取り組み」 
 森内憲(珈琲舎・書肆アラビク)


寄稿
「鑑賞記 ルイーズ・ブルジョワ展」
榊山裕子

現代人形研からのお知らせ

当会主催公募展「人形研展」概要は 4 月に発表
審査員に四谷シモン氏、日比野克彦氏決定!!
ほか数名の審査員を予定

本公募展は特定非営利活動法人現代人形文化研究会の会員・非会員を問わずに、プロ・アマ・学生、誰でも応募できます。 粘土人形、ビスクドール、布人形、ぬいぐるみ、3D プリンター作品、工芸品、彫塑など、人や生き物を模した人形であれば素材や技法、 ジャンルは問いません。

【公募展名】人形研展
【主催】 特定非営利活動法人現代人形文化研究会
【会期】 2025 年 12 月 13 日(土)〜 14 日(日)、16 日(火)〜 20 日(土)  
【会場】東京都美術館 第 4 公募展室 〒 110-0007 東京都台東区上野公園 8-36
【審査員】四谷シモン、日比野克彦(東京藝術大学学長) 
ほか数名の審査員の方を予定しています。
※一次審査 現代人形文化研究会公募展委員会
点数1人1点のみ(組作品は人形または展示パーツ 2 点までを 1 点とします)。土台(ビネット)一色のジオラマの場合は 1 点のみ(高さ 170cm 以内)。
公募詳細、申込み方法などは 4 月に公表、応募要項を配布します。

理事長より

都美術館での公募展の開催にあたり、 チーム・コヤーラのときから当会の活動を応援してくださる四谷シモン氏からは、美術館での展覧会おおいにやるべき、とエールをいただきました。 
現代美術家である日比野克彦氏と当会は今まで何のつながりもありませんでしたが、YouTube の「東京藝術大学」公式チャンネルで氏が美術学部だけで なく音楽学部や各活動の取り組みを幅広く、軽やかに紹介される様子を拝見し、このような形で「人形表現」全般を見ていただくことはできないだ ろうかと審査をお願いしてみたところ、快諾をいただきました。
私たちの「人形研展」は都美術館として初めての人形専門の公募展となります。約 90 年前、人形芸術運動が帝国美術院展覧会(帝展)の工芸部門 に人形で挑戦したのが、都美術館の前身である東京府美術館です。同じ館で公募展を開催するのは偶然ですが、この機会にこの公募展が人形という ものを考えるときのひとつの針路となるような展示に育てたいと思っています。 特別なテーマはありません。「人形」の制作に取り組んできた方々が自由に制作される力作が並ぶ祝祭となれば幸いです。
現代人形文化研究会理事長 羽関チエコ
 
現代人形文化研究会のYouTubeチャンネル
当会の展示や動画資料をこのチャンネルで蓄積します。
https://www.youtube.com/channel/UC3ydKLEkOWPO-gze5RCpbGw

動画編集が遅れています。
前号でお知らせしました「11 月 9 日のトークイベント」や、CoNiCS 展での招待作家マーレン・フェアヘルストのインタビュー 動画の編集をしております。公開しましたら、当会のインスタグラムでお知らせいたします。しばらくお待ちください。 https://www.instagram.com/gendai.ningyou/
 
年会誌 原稿募集 

当会は年に1回、年会誌を発行する予定です。これにともない、以下の原稿を募集します。
・人形に関する考察、論文など。
・アーカイブに推す作品や展覧会のリポート
※展覧会・作品リポートは随時募集しています。基本的に当年発表の新作、展覧会は個展が対象です。 自薦他薦可。他薦の場合は対象が当会会員でなくても構いません。年会誌はその年の優れた作品や表現をアーカイブとしてい くことを目的としています。
関心のある方は、member.gendainingyo@gmail.com の羽関までご連絡ください。内容を編集委員会で検討させていただき、 お返事をいたします。

INFORMATION

展覧会

松沢香代個展「石蟬」
3 月 17 日(月)〜 28 日(金)
11:00 〜 18:30(最終日は 17:30 まで)
ストライプハウスギャラリー 東京都港区六本木 5-10-33 3F
TEL 03-3405-8108

第8回人形と絵の「春」展
3 月 12 日 ( 水 ) 〜 18 日(火)
9:00 〜 21:00(最終日は 15:00 閉場) 丸善・丸の内本店 4階ギャラリー 入場無料
「春」をテーマとした人形と絵の展示会です。59 名の人形と絵の作家たちが描く「春」をお楽しみ下さい。
参加作家
ayaguma 今井亜樹 今井キラ ウエノミホコ 植田茉莉子 上渕翔 空木架子 加藤美 紀 紙谷英里 喜藤敦子 雲母りほ くり くるはらきみ 黒木こずゑ 上妻みどり 國 府珠美 小暮千尋 こみねゆら 紗矢香 柴田貴史 JIUMY しろこまタオ すかいみさ き 鈴木李佳 せいこ 青扇 せきぐちよしみ 高田美苗 田中アユミ 田中早苗 ちゃお 千代狛 戸井田しづこ 鳥居椿 中井柘榴 中川乃布子 長瀬萬純 永井健一 西村 勇魚 丹羽起史 Noe/ 高橋野枝 萩原まさえ 坂東可菜 日香里 藤本晶子 宝永たか こ maiko 松本潮里 マツモトヒラコ まな 美澄 水樹尚子 三谷拓也 むらいゆう こ 森下ことり 山吉由利子 吉水たか代 吉村眸 六花(五十音順・敬称略)

クラフトアート創作人形展 大阪展
3 月 12 日 ( 水 )~17 日 ( 月 )
10:00 〜 20:00(最終日 17:00 閉場) 阪急うめだ本店 9 階アートステージ 入場無料
併催・HELLO! DOLLS selection
2025 年 3 月 12 日 ( 水 )~18 日 ( 火 ) 10:00 〜 20:00(最終日 17:00 閉場) 阪神梅田本店 8 階ハローカルチャー 4・5 入場無料

SO COOL!!
4 月 19 日(土)〜 5 月 4 日(日) 11::00 〜 18:00
ぼらん・どぉる
東京都板橋区桜川 3 丁目 14-5
TEL 03-6780-0338 完全予約制 
男女の性差をあまり感じない現代のスタイリッシュでニュートラル(中立)な少年少女が繰り広げる「SO COOL!!」な世界観がテーマの展示会です。

イベント

FANTANIMA!2025 に向けて クラウドファンディング開催
毎年春に、東京駅前の丸善丸の内本店ギャラリーで開催する FANTANIMA! は、会場美術への応援をお願いするために 3 月中旬からクラウドファン ディングに取り組む予定です。
FANTANIMA! の会場美術は有志のチームでデザイン、設営されています。出品作品の世界を引き立てるべく、いつも少ない制作費でやりくりをし てきました。年々充実度を増す美術チームの制作費捻出の応援をお願いするクラウドファンディングです。
詳細と募集の第一報は FANTANIMA! 公式ブログに掲載予定です。募集期間 3 月中旬〜 4 月下旬を予定。 http://fantanima.blogspot.com/

展覧会リポート

清水ちえ個展 無限泡影 3
2 月 3 日〜 15 日 巷房 3 階・地下階段下(東京・銀座)

HEAD No.1

1996 年以来ニューヨークを拠点に活動されている美術家、 清水ちえさんの作品を日本で見られる機会はなかなかありません でしたが、今回、銀座の巷房ギャラリーの個展で、作品を実際に 見ることができました。同ギャラリーは初個展を開催された会場 とのことで、タイトルも当時と同じ「無限泡影」* です。

壁一面にかけられた仮面作品、等身大の頭部の作品のほか、全身 像の作品が 1 点出品されていました。 東京藝術大学で工芸を学び、ニューヨークでは解剖学を勉強され たというだけあって正確な写実造形や技術に目を見張りますが、 私は仏像や能面のような伝統的なモチーフに現代的な表現が美しく調和していることに強く惹かれました。
日本人であれば仏像や能面には自然と立ち入りがたい畏れのよう な感情を抱くと思いますが、表現においてその領域を現代の世界 へと延伸させるには、伝統への畏敬と知識、工夫と技術のどの要 素も欠かせないと思います。

 伝統的な素材と技術をそのまま踏襲した現代的な作品を目にする ことは珍しくありません。柔らかな質感から清水作品も胡粉塗り の木彫にしか見えないのですが、その本体素材は石膏とセメント です。細部まで作りこんだ水粘土からシリコン型を作り、石膏と セメントを型に流し込む時は、補強のために何層も刷毛で塗って 厚さを出して作るそうです。原型のスパチュラの跡を敢えて残すと木彫の削り跡のような風合いが生まれます。
透明感のある仄白い肌色、古仏の煤けたような色合い、突き出た舌の朱など、古刹の美術を彷彿とさせる彩色には日本画の材料、 胡粉、膠や粉の顔料(pigments) が使われています。日本の絵具をのせやすいように、石膏にセメントを半々に混ぜるようになっ たそうです。
麻糸のような繊維も使ったミクストメディアの髪型も作品のなかで重要な表現要素であり、オペラや暗黒舞踏のような斬新な 舞台空間を連想します。
 
公式ウェブサイトで書かれている、” 作品のほとんどにタイトルがなく特定の誰かをモデルにしたわけではない、内在する感覚 に直接語りかけることが目的 ” である清水作品は、その見方によって様々に表情が変わる能面の普遍性に通じるものがあると思 います。
展示を見た人の「かっこいい」というコメントを SNS で見ましたが、私も同感です。私が一番かっこいいと思うのはこれだけ の新しい要素が重なっているにも関わらず、隙の無い品格を感じさせる点です。それはジャンルを超えて、世代を問わず多く の日本人の心を魅了すると思います。
国内でも展示の機会が増え、さらに多くの作品を見ることができる日を願っています。
( 文・写真 羽関チエコ) 

* 無限泡影(むげんほうよう)とは全ては実態がなく空であるという意味の仏教語から、人生のはかなさのたとえに使われる。  
清水ちえ 公式ウェブサイト http://www.chieshimizu.com/

HEAD No.7

HEAD No.8

HEAD No.5

井桁裕子個展 
2 月 13 日〜 3 月 2 日 ストライプハウスビル D フロア  

019 年の個展で「ウラノス・ロータス・ウラニウム」と題して発表された未完の大作が、 今回の個展で 5 年の歳月を経て「ウラノス・ウラニウム」として披露されました。会場は 19 年と同じストライプハウスです。24 年 6 月発行の本紙 4 号で井桁さんご本人に寄稿 していただいた京都の「京都場」の個展でも完成前の同作が展示されました。 それまで色がなかった桐塑の像が、油彩で彩色され命を得たようです。
「ゲージツ家クマさん」こと篠原勝之氏をモデルにした像は力強く足を踏み出し二本の指 で宙を指し、腹からもりもり飛び出た腸は蓮根の形に変容しても生々しく、腰巻の布のう ねりは仁王像を彷彿とさせます。対照的に繊細な白い蓮の花が静謐な空気を帯びます。 これは「福島第一原発事故と人間存在について何かを言おうとしている作品」で「救いを、 そのための怒りを鬼神かなにか超自然的な姿を造形したい」ことから作られたということ を知ると、作品のインパクトの意図がひとつずつ読み取れていくようです。
井桁さんが得意とするポートレートドールは単なる写実ではありません。モデルのキャラ クターを独自の解釈で何か意味がある存在に変容させるのが、その表現の真骨頂だと思い ます。リアルな身体をスピード感をもって変容させる様はこれまでの作品にも見られます。 今回は非常に重いテーマですが爆発的に腹から飛び出る内臓は、篠原氏が育てている蓮を モチーフにしているのでしょう、井桁さんならではのユーモアのような、またはエロスの ような感覚を覚えます。
「ウラノス・ウラニウム」は、井桁作品のポートレートドールの代表作となることでしょう。 会場ではこの作品を中心に、陶の小品が出品されました。天使のような少女像たち、社会問題などを描いた作品から招き猫、 狛犬、リアルな桃や巻き貝など、技術と表現の幅を一望することができました。
(文・羽関チエコ)

2019 年に発表したときのタイトルは 「ウラノス・ロータス・ウラニウム」だった。

「ウラノス・ウラニウム」2025 年

クラフトアート創作人形展 ─幸福の容貌(しあわせのかたち)─ 
第 12 回 クラフトアート人形マッチングコンクール 
2 月 2 日〜 8 日 東京交通会館地下 1 階ゴールドサロン

毎年恒例のマッチングコンクールは、今回は一次審査を通過し東京での審査を希望する 31 人が展示をしました。中国からの 応募者からも受賞される方がいました。応募者のレベルも毎年あがり、隣室の招待作家コーナーでは昨年までの応募者の作品 がプロ作品として並び、それぞれに成長の早さを感じます。人気のある少女人形ではレベルが拮抗していますが、そのなかで 独自のムードを持つ人形が評価されているようにみえました。 応募者の方もそれにならって、どのように成長されるか楽しみです。(羽関チエコ)

東京展の審査員受賞者
銀座人形館 太田千花賞 小武内
スパンアートギャラリー 種村品麻賞 板牙娜里
万画廊 伊藤愛賞  調月つむぎ
AMULET 石坂寧賞、大石賞  crr
うらら展 山崎明咲賞 あらおひとみ
点滴堂 稲村光男賞、craft art DOLL 賞 千代狛
※オンライン審査
アラビク 森内憲賞 めぐみ
ギニョール 八津谷泰三賞 冬青(そよご)
受賞作品とコメントこちら

調月つむぎ

板牙娜里

千代狛

 

 
孤高の女性アーティスト、土井典の評伝『愛玩拒否の人形 土井典とその時代』を上梓してようやく一段落 したのは昨年末のことであった。締め切り間際には気になっていた展覧会をいくつも見逃してしまったが、よ うやく少しずつ回ることができるようになってきた今日このごろである。それにしても近年、女性アーティス トの展覧会が増え、美術館での個展の開催は当たり前の光景になってきた。そのなかでも先日まで六本木の森 美術館で開催されていたルイーズ・ブルジョワ展は見ごたえがあった。

布との関係 母との関係

ルイーズ・ブルジョワは 1911 年 12 月 25 日パリに生まれ、1938 年にユダヤ系アメリカ人の美術史家と結婚 してニューヨークに移った。1911 年といえば日本ではまだ明治 44 年。明治というと随分古いようだが、岡本 太郎と同じ年の生まれである。
 ブルジョワは 20 世紀を代表する女性アーティストの一人であり、その作品の意義についてこの短いエッセ イで多くを語ることはできない。ここでは「人形」との関係から「リプロダクション」という観点にしぼって 話してみたい。この言葉は、生物の生殖、複製、複写、再演、などと訳され、諸領域でさまざまな意味で用い られている。人形はもともとリプロダクションドールに見られるように、リプロダクションによる作品が違和 感なく受け入れられる一方、創作人形においてはオリジナリティを重視する傾向が強い。興味深いことに、こ のオリジナリティ重視の傾向は、現代美術がリプロダクションの価値を再検討し始めていた頃に逆向きの志向 を辿っていったといえ、このことは前衛的志向を持っていた土井典の作品を検討する際にも一つの矛盾点とし て考察したことである。それについては評伝を読んでいただくとして、ここではフェミニズム、精神分析で使 われてきたこの言葉の意味に限定し、そこから見える「人形」やアートとの関わりについて少し考えてみるこ とにしよう。彼女は女性であり、美術家であり、そして精神分析を長く受けるとともにその知識にも長けてい たからである。
  ルイーズ・ブルジョワの名を知らない人でも、東京・六本木の森美術館の手前、六本木ヒルズの入口付近に ある大きな蜘蛛をかたどった彫刻「ママン」に見覚えがある人は多いのではないだろうか。この作品はタイト ル通り母を表している。

ルイーズ・ブルジョワ「良い母」(部分)2003 年 布、糸、ステンレス鋼、木、ガラス

家庭とリプロダクション

 ジェンダー役割ということでいえば、男性は「生産」に、女性は「再生産(リプロダクション)」に関わる とフェミニズムでは考えられてきた。再生産は端的には人間の再生産(生殖)を表わすが、その意味を拡大して、 家庭、育児、ケア領域と結びつけて、女性のなすべきことはこの領域にあるとされてきた。こうした考え方が、 女性は新しいものを生み出す「生産」的な行為、「創造」的な営為には向かないという理屈にも繋がっていた。 それでも近代的自我を否応なくもってしまった女性たちが、伝統的 な女性役割とも抵触しない範囲で創造性を発揮することができた数 少ない領域のひとつが手芸の領域で、「人形」製作もそうした趣味 の範囲で許容されていた。とはいえ職人的な人形制作は男性の領域 であった。これは、料理は家庭で女性が行なうことであるとされる 一方、プロの料理人に関しては女性が入りにくい領域であったことと似ている。

 ただブルジョワの場合、興味深いのは「パリのタペストリーの商 業画廊とパリ郊外に修復工房を経営する両親のもと」で育ち、幼い 頃から布に触れる機会を多く持っていたこと、母親がタペストリー の修復を、趣味ではなく仕事として行っていたことであった。12 歳の頃から彼女はその仕事の手ほどきを受けていたという。 タペストリーを修復するだけではなく、その頃母は、パリから父親が持ち帰ったさまざまな美しい織物の端切 れを繋ぎ合わせて、いわば新たな織物として蘇らせていたという。
女性が家庭にとどまることが美徳とされた時代において、母親は多くの場合、社会に出て活躍しようとする 若い女性のロールモデルにはなりえず、そこで母と娘の間に深刻な対立が起こることも多かった。その時代に は、女性間の関係がうまくいかないのは女性の集団性の欠如、視野の狭さの現れであるかのようにまことしや かにいわれてもいたが、実際には家父長制社会のなかで対立するように仕向けられていたことが次第にわかっ てきたのもブルジョワが生きた時代であった。ブルジョワと両親の関係もまた複雑であった、1932 年の母の 死に際しては自殺を試み(その時は父に助けられた)、1951 年の父の死に際しては長く精神的な苦しみを経験 し、十年余り精神分析を受け、その時期は創作もままならなかったという。

こうした紆余曲折を経て、やがてブルジョワは家族に関わるさまざまな思い出に満ちた布の数々を切り刻み、 それを新たな形でつなぎ合わせるという作業に没頭しそれを作品としていくことになる。布のヒトガタ作品も 自分自身の親、自分自身、自分の子供たち、カップル関係、親子関係などのさまざまな関係が反映されている。 そこには母から学んだ縫製の技術が生かされており、ブルジョワは母との和解を創作の分野で実現することが できたという意味で、後続の女性たちのロールモデルとなることができたと言えるかもしれない。また既成品 の切断と縫製によるその再結合、そこには「生産」と「再生産(リプロダクション)」を繋ぐ架け橋としての 創造的営為があるとともに、女性を長い間苦しめてきた「生産」と「再生産」の分断に疑問を投げかけるとい う意図も背後にあったと考えることもできよう。こうした融和的な作品は主に 1990 年代以降に作られており、 彼女自身の心境の変化の背景に、フェミニズム的な表現が普遍的な表現として認知されていった時代の変化が あったことも見逃せない。

反復と人形

 「リプロダクション」といえば、精神分析ではそれは「反復強迫」と結びつけて語られてきた。『人形愛の精神分析』のなかで、精神分析医・藤田博史は次のように語っている。

 人形は「リプロダクション」です。人間が子供を作り続けるのも同じです。人形作家で一体作って終わり、 という人に会ったことはない。必ずまた次の人形を作ります。常に反復していくエネルギーがでてくる。そ れは何かというと、これはやはり「反復強迫」という現象ですね。人形を作っていく背後に「死の欲動」が 働いている可能性があるわけです。(『人形愛の精神分析』)

 精神分析における「リプロダクション」は、「反復強迫」と呼ばれる現象と関わっている。ルイーズ・ブル ジョワは精神分析を長年受けており、精神分析についての知識もかなり持ち合わせていた。彼女はかつて作っ た「お気に入りのモチーフ」を数十年後に手直しして新しいヴァージョンにすることもあった。ブルジョワ の作品を論じた精神分析家ジェイミソン・ウェブスターは「美術館の慣習からすれば、これらは言うまでも なく、2つの異なる時代に制作された 2 つの異なる彫刻にほかならない。しかし精神分析的には、これらは 作り手の人生の中の異なる時点で異なる形で構想された同じ彫刻と説明することができる」と指摘している。 先述のように晩年のブルジョワは自分の家族の服などを解体して再び組み合わせてコラージュのような作品 を作っていた。それは彼女自身にとっての家族のあり方、解体の危機と新たな再構築を表していた。ここで はリプロダクションは精神的な危機とそこからの回復、いわば死と再生を表していたといえようか。

ヒステリーの身体と人形

 精神分析の話がでたところで、最後にこの展覧会で重要なもう一つのヒトガタについて触れておきたい。 今回の展覧会でのもう一つの見ものは、この展覧会を象徴するように、広い窓から六本木界隈が見渡せる場 所に天井から吊り下げられた金属の作品「ヒステリーのアーチ」である。これと同様の布で作られた人形を 思わせる作品もブルジョワは製作していた。身体がアーチ状になっているのは「後弓反張」と呼ばれ、ヒス テリーにおいては女性に典型的に見られるとされてきたが、これは若い男性の身体でありそこにもまたさま ざまな含意があるといえる。
ヒステリーと人形には実は強いつながりがある。日本の球体関節人形に大きな影響を与えたハンス・ベル メールは、彼の少女の人形の身体をヒステリーの身体として構想していた。これについてはかつて筆者が DFJ で連載した「ベルメールから」でも解説しており興味深い話題ではあるのだが、残念ながら紙幅も尽きた。 ここではベルメールもブルジョワ同様、一時期精神分析を受けていたことを指摘しておくにとどめておくこ とにしよう。

ルイーズ・ブルジョワ「ヒステリーのアーチ」 1993 年 ブロンズ

ルイーズ・ブルジョワ「カップル」(部分)2001 年 布

 ルイーズ・ブルジョワ「無口な子」(部分)2003 年 布、大理石、ステンレス鋼、アルミニウム

 ルイーズ・ブルジョワ「カップル」(部分)2004 年 布、糸、ステンレス鋼、木、ガラス

主要参考文献
ジェイミソン・ウェブスター

「『それは何度もくりかえし戻ってくる』ルイーズ・ブルジョワと精神分析を巡って」『ルイーズ・ブルジョワ展』図録、美術出版社、2024
椿玲子「ルイーズ・ブルジョワ 地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかっ たわ」、『ルイーズ・ブルジョワ展』図録、 美術出版社、2024
エイミー・ノヴェスキー(文)『ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家』西村書店、2018
藤田博史 『人形愛の精神分析』青土社、2006

ルイーズ・ブルジョワ展 2024 年 9 月 25 日 ( 水 ) 〜 2025 年 1 月 19 日 ( 日 )  森美術館
展覧会公式サイト (森美術館) https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/bourgeois/

画像撮影  長尾千斗、榊山裕子(「ヒステリーのアーチ」)、羽関チエコ「ママン」(タイトル)
※本記事掲載写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。 

 

私の取り組み

当会会員の取り組みをご紹介します。

森内憲 (珈琲舎・書肆アラビク)

 中沢新一の『大阪アースダイバー』という本に、商品は神への供物のお下がりからはじまった、との旨が書かれている。古代、あらゆる生産物には土地や人の霊力が宿っていたから、物々交換の場では人格や信用の交換が同時に行われていた。一方で神にいったん献上されたものは、人の所有を離れ、霊力から無縁のモノとなり、商品として流通できるようになるのだという。

 人形のギャラリーをはじめて 18 年になる。この世の中で取引されるモノの中で、人の似姿である人形は、 もっとも「魂」を感じさせる。作家がそれまで培ってきた技術を投入し、美意識を注いで拵えた創作人形は 尚更だ。これまで人形を買ったことがなかった、というお客様から「わたしが買っていいのかな、と迷うん です」と躊躇の理由を聞くことは多い。作品の向こうにいる作家や、その作家のファンを気にしているのだ。 そういうとき、わたしは作家の話は控える。主にその人形の素材、球体関節人形の由来について説明する。 その人形があなたの前に現れた歴史と必然を語る。それは、目の前にいる人形に宿る、作家の魂を抜き取る ことに近い。そもそも優れた作品には、作家から離れた、作品自身が持つ自律/自立性がある。それこそが、 作家から離れ、人形自身がもつ魂と捉える人もいるだろう。

 世間ではコロナ禍が一段落したことになった。それに伴って、書籍にカフェ特集が組まれ、取材を受ける 機会が続いた。アラビクは梅田に近い中崎町という人気スポットの、本やギャラリーのあるカフェだから、 メディアに取り上げられるフックが多い。最近はカフェという 切り口での取材だったはずが、人形の写真も誌面に掲載される ことが増えた。わたしは息を吐くように人形の話をするのだ。 ライターさんから「素敵なカップですね」と言ってもらえれば、 マイセン窯の説明から、ヨーロッパの磁器は日本や中国の磁器 から影響を受けて研究されたものですが、このビスクドールも かしらはカップと同じ磁器で、西洋人形が愛玩化してきた背景 には日本の市松人形の影響があると言われています、と話すう ち、誌面を人形が飾る、という次第である。

 どんな話題からでも人形の話につなげられるというのは、人 形がそれだけ人の営みと密接だったからだろう。人形について 話すことで、目の前の人形の魂を抜き取っているつもりでいる にも関わらず、その人形の魂に、自分が動かされているような
 気持ちになるのである。
 

人形 羽鳥聖子

現代人形研通信 8号 2025年2月28日発行
特定非営利活動法人 現代人形文化研究会  
189-0003 東京都東村山市久米川町3丁目27-57 TEL 042-395-7547 (ノンクプラッツ内) 
会員連絡用Email member.gendainingyo@gmail.com
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