1996 年以来ニューヨークを拠点に活動されている美術家、 清水ちえさんの作品を日本で見られる機会はなかなかありません でしたが、今回、銀座の巷房ギャラリーの個展で、作品を実際に 見ることができました。同ギャラリーは初個展を開催された会場 とのことで、タイトルも当時と同じ「無限泡影」* です。
壁一面にかけられた仮面作品、等身大の頭部の作品のほか、全身 像の作品が 1 点出品されていました。 東京藝術大学で工芸を学び、ニューヨークでは解剖学を勉強され たというだけあって正確な写実造形や技術に目を見張りますが、 私は仏像や能面のような伝統的なモチーフに現代的な表現が美しく調和していることに強く惹かれました。
日本人であれば仏像や能面には自然と立ち入りがたい畏れのよう な感情を抱くと思いますが、表現においてその領域を現代の世界 へと延伸させるには、伝統への畏敬と知識、工夫と技術のどの要 素も欠かせないと思います。
伝統的な素材と技術をそのまま踏襲した現代的な作品を目にする ことは珍しくありません。柔らかな質感から清水作品も胡粉塗り の木彫にしか見えないのですが、その本体素材は石膏とセメント です。細部まで作りこんだ水粘土からシリコン型を作り、石膏と セメントを型に流し込む時は、補強のために何層も刷毛で塗って
厚さを出して作るそうです。原型のスパチュラの跡を敢えて残すと木彫の削り跡のような風合いが生まれます。
透明感のある仄白い肌色、古仏の煤けたような色合い、突き出た舌の朱など、古刹の美術を彷彿とさせる彩色には日本画の材料、 胡粉、膠や粉の顔料(pigments) が使われています。日本の絵具をのせやすいように、石膏にセメントを半々に混ぜるようになっ たそうです。
麻糸のような繊維も使ったミクストメディアの髪型も作品のなかで重要な表現要素であり、オペラや暗黒舞踏のような斬新な 舞台空間を連想します。
公式ウェブサイトで書かれている、” 作品のほとんどにタイトルがなく特定の誰かをモデルにしたわけではない、内在する感覚 に直接語りかけることが目的 ” である清水作品は、その見方によって様々に表情が変わる能面の普遍性に通じるものがあると思 います。
展示を見た人の「かっこいい」というコメントを SNS で見ましたが、私も同感です。私が一番かっこいいと思うのはこれだけ の新しい要素が重なっているにも関わらず、隙の無い品格を感じさせる点です。それはジャンルを超えて、世代を問わず多く の日本人の心を魅了すると思います。
国内でも展示の機会が増え、さらに多くの作品を見ることができる日を願っています。